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藤野ぐるっと陶器市2022 レポート

​平川まんぼう

2022年5月21・22日、コロナ禍で中止が続いていた「藤野ぐるっと陶器市」が3年ぶりに開催されました。

毎年、なんとか開催できないかと検討しては断念してきた経緯があるだけに、関係者にとってもお客さんにとっても待ちに待った2日間。その模様をお届けしたいと思います!

1 & 2. 百笑の台所/日連神社

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百笑の台所 (10)
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本当に開催できるんだ!

その喜びとワクワクが伝わってくるような朝。

 

…というとよく晴れた朝の光を想像してしまうかもしれませんが、じつは1日目の朝、藤野は笑っちゃうほどの土砂降りでした(笑)。通常なら、イベントのときに天気が悪いと肩を落としてしまうものですが、今年はなんだか様子が違います。

 

もはや天気の悪さというマイナス以上に、開催できたことの嬉しさのほうが優っていて、その浮き足立った空気感が会場を包み込んでいたのです。

この天候では、人出はかなり少ないのではないかと想像していましたが、朝一番にもかかわらずたくさんの人がいて、作家さんも接客に慌しそうにしていました。

 

例年は日連神社の境内を会場にしているチームが、今年は百笑の台所の敷地内にある「結びの家」に会場を変更して参加しました。いつも神社で見かけるお馴染みの面々。雨もあってかほとんどの作家さんはギャラリー内にいて、建物の中でお見かけするのはなんだか不思議な感じがします。

 

陶器市の代表でもある林正人さんのユーモアの効いた陶人形をはじめ、カラフルだったり、美しい紋様が描かれていたり、フォルムが美しかったりといったさまざまな器が楽しめました。また、ガラス作家さんの参加も多く、透明な色ガラスが雨の山を映し込んでとてもきれいでした。

 

百笑の台所としては、芸術の道の彫刻「コスモス」の作者として知られる故・村上正江さんの彫刻作品や望月厚介さんの絵画、オーナーの桑原勝利さんが長年コツコツ集めたさまざまなアート作品の展示がありました。窓の外の絶景を眺めながら、参鶏湯をはじめとしたおいしい韓国料理を食べ、アートを楽しみ、器を買う。そんな楽しみ方ができる会場でした。

 

会場内はどこも、大雨だということを忘れそうな熱気。作家さんとお話しようかと試みましたが、

次から次へとお客さんがきて忙しそうで、声をかけるのは断念したほどでした。

 3. しぜんと遊ぶ

 

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しぜんと遊ぶ (11)
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百笑の台所と元ガソリンスタンドの間の道を少し登った先。見晴らしのいい高台の会場がクラフト作家のさとうますよさんのアトリエ「しぜんと遊ぶ」です。本当に住宅街の中にあるので、百笑  笑の台所から歩いてきて、途中で道を間違っているのではないか と不安になった方もいたようです。

アトリエやご自宅の一角で作家さんが出店し、庭にはキッチンカーやパン屋さんなどが並んでいます。コロナ対策で受付での体温確認も行うなど、感染対策を徹底されていました。晴れていれば、向こう側の山が見渡せ、庭でのんびりするのが気持ちいい空間なのですが、さすがに大雨で難しそう。でもますよさんはじめ、みなさん「今日はもう開催できただけで満足!」とニコニコでした。

 

そして、あまり期待できないかと思われた人出もまずまず。畳の部屋に置かれたアンティークの和箪笥やウッドデッキのベンチにディスプレイされた作品をみなさんひとつひとつ吟味しています。アトリエの棚には作品がきれいに並べられ、さながら本格的なギャラリーのようでした。

 

いつ来ても居心地のいい「しぜんと遊ぶ」ですが、雨の中でもその居心地の良さは健在でした。屋根のある場所に座り込み、根が生えてしまいそうになるところをぐっとこらえて次の会場に向かいました。

4. 観光案内所ふじのね

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ふじのね 森永

藤野駅前にある「観光案内所ふじのね」は、毎年、陶器市のインフォメーションセンターとして、町外からきたお客さまへの案内をしてくれています。今年も入口付近にテーブルを置き、スタッフさんが常時スタンバイ。会場数が多く、町内のあちこちに点在している陶器市は、土地勘がないとどのように回ればいいのかがわからないため、インフォメーションセンターの存在は大切です。また、電車でこられる方々はシャトルバスを利用するケースが多いため、その案内などもしてくださっていました。やはりこちらも、大雨にもかかわらず、お客さんの数は、体感的には例年とそれほど変わらないとおっしゃっていました。

 

案内所内では常設の販売スペースで藤野在住の陶芸家の作品を展示・販売していました。毎月展示が変わるミニギャラリーは、シューデザイナー・森永潤一郎さんの美しい革の作品が並び、そこだけすっきりとしてどこか静けさがありました。

5. 酔月庵

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今回、初参加となった会場「酔月庵」。まちの南側に会場が集中す中、唯一の北側の会場です。県道を県境方面に向かい、脇道を入ってしばらく上がったところにあり、正直、道の細さに本当にここで合っているのかと、ちょっぴり不安になります。知らないとなかなかたどり着けそうもない場所です。

けれども、頑張ってたどり着くと、静けさと絶景のご褒美が。庭から見渡す山々はとても美しく、いつまででも見ていられました。

酔月庵は高台に立つ古民家で、すぐお隣に陶芸家の溝口とみえさんの工房があり、それがきっかけでコラボして参加することを決めたのだそう。入り口付近では溝口さんの作品の販売が行われており、室内では、広々とした広間に壺などの大作が展示されていました。この広間の畳に座って、陶作品を眺めながら遠くの山々を望むのもまた格別。晴れていたら、縁側に座ってお茶を飲みながらのんびりするのもよさそうです。

 

庭では石澤義人さんの木工作品の販売も。本業はカメラマンだという石澤さん。趣味がこうじて、いまでは木工作家としても活動するようになったそう。

 

移住者もそれほど多くなく、古くからある家が立ち並ぶ北側は、陶器市という大きなイベントの最中だということを忘れそうな静けさと穏やかさがありました。静かな時間と空間をゆっくりと楽しませていただきました。

6. 工房艸(そう)

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染織作家の木下純子さんのアトリエ兼ご自宅の敷地が会場となる「工房(そう)」。日連地区の開けたエリアにあり、藤野では珍しくぐるりと広い空が眺められる居心地のいいところです。小さなおうちの周りを新緑が覆い、その合間に作家さんのテントが立ち並びます。

 

近くの空き地に設けられた駐車場、混んでて入れないかもと思っていまたが、かなり空いていました。ひょっとしてお客さんが少ないのではないかと心配しましたが、予想に反して、朝からとても賑わっていたのだそう。ただ、ウッドデッキと庭という野外の会場だったため、大雨でゆっくり見て回る人は少なく、いうなれば「回転率がよかった」らしいのです(笑)。

こちらの会場もすっかり恒例のメンバーとなりました。日常的に使いやすそうな器が多いほか、木下純子さんのつくるカバンやポーチはやはり人気です。新緑に囲まれて、あれこれ器を選ぶのは楽しく、思わずぐるぐると何周もしてしまいました。

 

そしてひそかに大人気だったのが、いちばん奥にひっそりあった野菜の無人販売所。陶器市には、陶器を見たり買ったりする以外にもいろいろな楽しみ方があるのです。

***

今回、陶器市に参加したのは、日連神社チームを含めると全10会場。例年の約半分となり、最初は若干寂しい気もしました。しかし、ゆっくり見て回っても、無理なく1日で半分の会場を回ることができました。毎年、丸2日かけても全会場回るのは至難の技だったため、10会場程度だと、お客さんとしてはちょうどよい会場数だったようにも思いました。

 

 2日目。昨日とは打って変わって、快晴!

 

3年ぶりの開催で浮かれた心はさらに舞い上がります。おそらく、初日以上の賑わいになることは間違いないでしょう。この日は4箇所の会場が集中する篠原地区をじっくり見て廻りました。

7. 高橋安子アトリエ

最初に伺ったのは「高橋安子アトリエ」です。篠原地区の中ほど、南斜面の高台に建つご自宅兼アトリエは、見晴らしの良さはもちろんですが、安子さんの夫で造形作家の高橋政行さんがハーブビルドで建てた建物もとてもすてきなんです。

 

リビング空間では、毎年、安子さんの陶人形とゲストアーティストとのコラボ展示が恒例になっています。今年は、お隣の旧相模湖町で暮らす画家のAiko Pooleさんの絵が飾られていました。

 

面白かったのは、陶器でつくられたリアルサイズの木の実。広いテーブルにたくさん並べられた中に「じつは本物の木の実も混ざってる」と安子さん。パッと見ただけでは、どれが本物かまったく区別がつきませんでした。テーブルの前は、本物を当てようと、ちょっとしたクイズ大会のようになっていました。

 

ご自宅と政行さんの工房の間には広々したウッドテラスがあり、展示を見たあとはみなさんそこでひと休み。3年前は、このテラスから山々が見渡せたように記憶していますが、なんと樹木が成長し、景色が見えなくなっていました。時の流れを感じますね…。

 

初日は、安子さんの娘さんのパン屋さん「スロウパン」のパンも販売されていたようですが、即完売だったようで、2日目はありませんでした。残念!

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8. 釜戸の上

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建築家で木工作家としても活動する長崎克央さん宅「釜戸の上」。古民家を何年もかけて手を入れながら暮らされていて、毎年進化していく空間を見るのも楽しみのひとつです。庭には、どんどん本格的になっていく木工室のほか、ギャラリースペースや小さな東屋、テラスなどもできていて、それらを見て廻るだけでも楽しめます。

 

そして、ぜひ見てほしい、と長崎さんに言われたのが、テラスの絵画展示。藤野在住の画家・ナオコラヴさんの絵に長崎さんが額縁をしつらえ、ギャラリーから張り出したフックに絵を掛けると、まるで森の中に絵が浮かんでいるかのように見えるのです。ちょうど新緑が濃く深まりだしたタイミング。とても幻想的な空間に仕上がっていました。

 

お庭やギャラリーでは西村まゆみさんの陶器の展示販売も。長崎さんのつくるテーブルやベンチ、一枚板の展示台に飾られた器は、どれも背筋が伸びて凛とした装い。ナオコラヴさんの小作品も置かれているなど、ただ販売するだけでなく、参加者みんなで展示空間をつくりあげている感じがとてもすてきでした

 9. 陶釉舎

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篠原地区のいちばん端っこにある陶釉舎。歩くと少し距離があり  ますが、なんとか歩けなくもない、ということで、篠原の里駐車  場から歩いて向かいました。

 

じつは最初の陶器市は、ここ陶釉舎を会場にして始まったのだそ  うです。教室サイズぐらいあるめちゃくちゃ広いウッドテラスと  周囲を取り囲む通路には、たくさんの作家さんのお店がズラリと  並んでいます。

陶釉舎を主宰する碓井直弘さんと吹田千明さんの作品はもちろん、陶釉舎で陶芸を習っている生徒さんの作品も販売。そしてひそかにテーマとなっているのが「海と山の交流」で、参加者には湘南の作家さんがとても多いのだということを初めて知りました。そういわれると確かに、みなさん湘南地区にお住まいです(笑)。陶器市をきっかけに湘南の作家さんとご縁ができ、お互いに何かあれば声を掛け合うなどの関係性ができているのだそう。

 

どの作家さんの作品も魅力的で、個性豊か。どれがいいかと選びきれず、何度もぐるぐる会場を回っている方もたくさんいました。また、通路やテラスにぎゅっとお店が集まっているため、作家さんとの距離が近く、お話しやすいようにも感じました。

 

そして広いテラスは今年も抜群の居心地の良さ。3年ぶりということで、久しぶりに会った人たちと近況を報告しあったり、初めましての人と思わず話が盛り上がったり。こうした交流もまた、陶器市の楽しみのひとつだなぁとあらためて感じました。

10. keramos+

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もともと愛ちゃんキムチの下で開催していた「keramos」と愛ちゃんキムチ駐車場で開催していた「妙心庵」が合体し、「keramos+」となって篠原の里に会場を移して初開催。どちらもそもそもが規模の大きな会場だったこともあり、今回、広さでも出店者数でもいちばん大きな会場になりました。

それもあって「keramos+」は、篠原地区の各会場を巡る拠点のようになり、どの時間もとても賑わっていました。陶芸家はもちろん、木工作家や革作家、造形作家など、出店者もバラエティ豊かです。大きなイベントがなかった昨今なので、この盛り上がりがとても嬉しく感じられました。

午後には、地元の小学生バンドの初ライブという場面にも出会いました。楽器に興味をもった子どもたちが大人たちに弾き方を習っていたところ「どうせ楽器やるならライブやろうぜ!」と言われ、いきなりの大舞台にチャレンジすることになったのだそう。最初は緊張気味だった子どもたちも数曲演奏するうちに、肩の力が抜け、楽しそうにしていました。

 

出店者が多かったことはもちろんなんですが、大勢の人で賑わった大きな理由は、飲食ブースが多く、イスやテーブルがたくさん用意されていたことではないかと思います。オープンハウスのような小さな会場を回るのも楽しいですが、いろいろな作家さんの作品が一度に見れて、混雑を気にせず食事ができ、のんびり滞在できる大きな会場も大切。場づくりのあり方をあらためて考えさせられました。

 

***

 

藤野からあらゆるイベントがなくなって丸2年。今年の「藤野ぐるっと陶器市」は、その2年間の静寂を打ち破る最初のイベントでした。藤野でもっとも大きく、もっとも多くの人がやってくる陶器市が何事もなく無事に終えられたことは、今後、まちが日常を取り戻していく上での自信につながったのではないでしょうか。

 

なにより作家さん、関係者、お客さん、みんなが楽しそうに、かつての「日常」を楽しんでいたのが印象的でした。順調にいけば、来年はさらにできることが増えるはず。復活していくプロセスによって新たな陶器市がどう発展していくのか、今から楽しみでなりません!

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